まったく、なんでこんなことになったんだ!!
面倒は起こすなとあれほど言っていたのに!
初めは怒りで満ちていた心中も今では落ち着いていた。
ゼロの部屋、ベッドに横たわるのはC.C.。
運ばれた時の青白かった顔色も元に戻りつつある。
ライトグリーンの前髪をかきわけ、おでこに掌をのせる。
熱もないし、呼吸も整っている。目覚めるのは時間の問題だろう。
数時間前の毒入りチョコレート事件の唯一の被害者。
いや、こいつが勝手にやったことなんだから自業自得か。
しかし、例のチョコレートが誰かの口に入らなくて良かったと思ったのも事実だ。
騎士団内であろうがなかろうが、結局のところ規律をつくったとしても
影で破っている者達がいるということは明白なのだから。
とりあえず先出ってやることは、例のチョコレート菓子のどの材料から何の毒が
検出されるか調べること。毒物に関してはラクシャータが検出作業真っ最中だろう。
そして販売製造元をチェックし、その首謀者には制裁を行う。
そんな計画を考えていたら、C.C.が身じろぎした。
「う・・・」
まぶたがうっすら開き2、3度瞬きする。
「あ、れ?ルルーシュ。何でお前がいるんだ?」
まだ意識がはっきりしないのか、ぼんやりルルーシュを見つめている。
「ここでは“ゼロ”だ。お前、毒入りチョコレートを食べて死にかけたんだぞ。」
「・・・・。」
しばらく考えこんで、ようやくこの状況を理解したらしい。
横になったまま、ルルーシュをじっとみつめている。
「規則をさっそく破ったのはお前だ。だから、」
「自業自得といいたいんだろ?」
「わかってるならいい。
フン、カレンとチョコレートを食わせてしまった奴が心配してたぞ。
明日でいいから顔を出しに行け。」
「わかった。それで、」
「騎士団内での食品の譲渡は禁止のままだ。明日がバレンタインでも。」
「心の狭い奴め。」
お互いずべての言葉を言わずともわかるらしい。
さすが自分の共犯者は、といったところである。
しばらく沈黙の後、ルルーシュが口をひらく。
「C.C.、お前は誤解をしている。
私は騎士団内での食品の譲渡は禁止したが、それ以外は黙認している。」
「ということは・・・」
「そうだ。賢い奴は不満も言わないだろうさ。外で渡せばいいんだからな。」
C.C.からの返事はなかった。ただじっとこちらを見るのみ。
「お前ならわかっていると思っていた。まさか毒見をしだすなんてな。
これこそ思ってもみなかったよ。」
笑みを含めたルルーシュの声。つづけて言う。
「C.C.、体から毒が完全に抜けたわけじゃないだろう。
後のことはいいから休め。」
その言葉を素直に受け取ったのか、C.C.のまぶたはゆっくり閉じた。
2月14日 PM11:00
昨日の一件もあってか、騎士団内は少々騒がしかった。
「んにしてもよ、結局、外でやれば関係ねぇならそう言ってくれりゃいいのに。」
玉城はどっちにしろ不満を漏らしている。
その不満に返事を返すカレン。彼女の方が深刻らしい。
「だから、あんたはあってもなくても一緒でしょ?問題は私の方よ。
ゼロに騎士団外で会おうなんて私には無理よ・・・」
「あん?C.C.が毒見したんだから問題ないだろ。」
玉城の答えに、ため息をつくカレン。
ゼロに渡すはずのチョコレートを強く握り締めてしまう。
「昨日、C.C.が毒見して毒にあたったでしょ。
彼女を救護室に抱えていった時にゼロに会ったのよ。」
ここでさらにため息をつくカレン。
「ゼロは私に聞いてきたの。『カレンもC.C.に毒見してもらったのか?』って。
それでつい、『私は規則は破りません』って答えてしまったのよ。」
つまりは、C.C.に毒見を依頼してないということ。
さすがの玉城も気の毒そうに見ている。
(へんな見栄はらなきゃよかった・・・)
俯きながら、そんなことを考えているとふいに声をかけられた。
「カレン、昨日はすまなかった。」
見上げるとC.C.の姿。毎度思うが、ほんとにいつも突然に現れる。
「もう体は平気なの?」
「ん、ああ。問題ない。なんだ、浮かない顔だな。」
「まぁ、ちょっとね。」
「フン、当ててやろう。チョコレートを渡したいが渡せないんだろ。
貸せ。渡しといてやる。」
え、と思っている間に手中にあったチョコレートはぶんどられた。
「昨日はカレンには世話になったしな。お礼だ。
外であいつに渡せばいいだろ?心配するな。ちゃんとお前からだと言っておくよ。」
そう言い彼女は姿を消してしまった。
まったく現れるのも消えるのも瞬く間である。
唖然とするカレン。
「よかったじゃねぇか。C.C.が渡してくれるんだからよ。」
玉城はフォローのつもりで言ったが逆効果だったらしい。
「C.C.はゼロとやっぱり外で会ってるんだ・・・。」
2月14日はバレンタインデー。
誰もがハッピーバレンタインではないのである。
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すごい昔になる話ですが、初恋の男の子にバレンタインのチョコレートを
作ったのに恥ずかしくて渡せなかったんですよね・・・
で、結局自分で食す。
こんなことってありませんでしたか?